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ノベルの森

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(1)  夢

   (1) 夢  



何か変?そう感じた時、柚子(ゆず)の目が覚めた。



「ふーっ、おかしな夢」



彼女はこのところ、毎夜同じ夢を見続けている。

しかも初めての夜を前編とすると。2日目は中編。3日目は後編、

と言った具合だ。そして4日目にはまた前編にもどる。



この繰り返しに気付いたのが今日だった。

前編は小学生から中学生までの夢。

そして中編は中学卒業と、同級生、木野浩二との別れ、

そして高校進学。

さらに、大学在籍中にスカウトされ、モデルになるまで。

後編は木野浩二との再会、結婚。そして永遠の別れ。



はじめて。この連続ものの物語のような夢を見たのは、

柚子にとって26度目の誕生日、6月21日だったから

2度目の後編を見たのが今日、6月26日だった。



何か変?柚子がそう感じた理由は、連続した夢を2度も

続けて見た事だけでなく、その中身にあった。



前編は憶えていることばかり



「ええ、そうね。そうだったわ」



彼女は夢の中でそう言った。

      

中編も途中までは・・・中学卒業。木野浩二との別れ。

そして高校進学。ここまでは・・・



「ええ、そうね、そうだったわ」



なのだが。夢では大学に入学し、在籍中にスカウトされて

モデルになっているし、父親も健在だ。だが現実は。



「父は私が高校3年生の時に亡くなっているし、

私はスカウトされてモデルになったんじゃなくて、

母のお友達のおばさまから薦められてオーディションを

受けて合格した。それでモデルになった」

そこが違うし。

 

 後編は、まったくの未体験シーン。彼、木野浩二との結婚については。



「考えたことが無かった。と言えば嘘になる」



と、ひとり顔を赤らめた。そして後編の結末については。



「あまりに悲しすぎる。考えられない」



と、ひとり言を言い、ベッドを離れた。

 

 柚子の父親、沢田周一は「沢田整形外科クリニック」の院長だったが、

柚子が18の時、急逝した。

 不幸中の幸いとでも言うか、沢田周一の実弟、

沢田 実は当時公立の総合病院に外科医として勤務していたのだが、

亡き兄とその家族、特に姪の柚子の将来を想い、兄の跡を継いで

「沢田整形外科クリニック」の院長となった。

 彼はすでに自分の家を構えていたので、車で通うことにした。

おかげで秋子と柚子は、周一との思い出で一杯のクリニックの

2階にある我が家での暮らしを続ける事が出来るようになったのである。



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